米中西部の激戦区で民主党候補がトランスジェンダーの権利戦略をめぐり分裂

2026年10月、11月の米中間選挙を控える中、中西部激戦州(特にアイオワ州およびオハイオ州)の民主党候補者たちの間で、トランスジェンダーの権利をめぐる選挙戦略において深刻な路線対立が浮き彫りとなっている。共和党陣営からの激しい広告攻勢に直面し、一部の民主党候補が保守寄りの立場へ舵を切り未成年者への規制を支持する一方、別の候補者たちは文化的な論争を回避し、有権者の関心を経済やインフレ問題へと誘導する戦略をとっている。
国際通信社 Reuters が選挙キャンペーン広告の分析および9名の党戦略家への取材に基づき報じたところによると、この戦略的分裂は、近年ドナルド・トランプ氏が優勢を維持してきた地域で穏健派や保守派の有権者を取り戻そうとする民主党側の思惑に起因している。共和党は、2024年大統領選で有権者の心をつかんだ「カマラは彼ら/彼女ら(they/them)のために、トランプ大統領はあなたのために」というメッセージの成功を踏まえ、ジェンダー問題を再び攻撃材料として前面に押し出している。2026年春に実施されたロイター/イプソスの世論調査では、米国民の67%が女子学校スポーツへのトランスジェンダー選手の参加禁止を支持しており(共和党支持層の92%、民主党支持層の44%)、世論の分断が続いている。
アイオワ州では、複数の有力な民主党候補が進歩派の公約から公然と距離を置いている。世論調査でリードし、2006年以来となる民主党州知事の誕生を有望視されているロブ・サンド州監査官は、ポリティコに対し「女子スポーツは女子のためのものだ」と明言した。最近の対話集会(タウンホール)でも、共和党が推進するスポーツ参加禁止方針に「同調する傾向がある」と発言し、会場から「卑怯者!」と野次を浴びる場面もあった。上院選のジョシュ・トゥレク候補や下院選のサラ・トロン・ガリオット候補も同様の立場を示しており、ガリオット候補は選挙CMで「女性用更衣室に男性を入れることに反対し、政治家ではなく親が子供の決定を下す権利を守る」と訴えた。これに対し、アイオワ州議会初のトランスジェンダー議員であるエメ・ウィヒテンダール下院議員は「選挙に勝つために降伏し、共和党の言説を繰り返す必要はない」と厳しく反論した。
オハイオ州では、第9選挙区で共和党のデレク・メリン氏と激戦を繰り広げるベテランのマーシー・キャプター下院議員が反撃の広告を打ち、「トランスジェンダー・イデオロギーを学校から排除し、女子スポーツへの男子参加を阻止するために共和党と共に投票した」と主張した。これに対し現地のLGBTQ+団体「ルーカス郡ストーンウォール・デモクラッツ」は公開書簡を送り、キャプター氏が「共和党と共に底辺への競争に走っている」と非難した。一方、トランプ氏が推薦するジョン・ヒューステッド氏と対戦する元民主党上院議員のシェロッド・ブラウン氏は、文化戦争への言及を避ける戦略を採用した。イーロン・マスク氏の政治資金団体(PAC)による中傷広告に対し、ブラウン陣営は物価高や関税問題が深刻化する中で対立候補が社会問題ばかりを論じることに疑問を呈する一般有権者を起用した広告を放映した。
人権団体は、保守派の主張に妥協しても新たな支持層の獲得にはつながらず、党を支えてきた進歩派やLGBTQ+有権者の投票意欲を削ぐ恐れがあると警告している。「クリストファー・ストリート・プロジェクト」のタイラー・ハック代表は、選挙の思惑のために社会的弱者を切り捨てるのではなく、包括的な対話を構築すべきだと訴えた。民主党議会選挙委員会(DCCC)のベト・シェルトン報道官は、共和党が生活課題から目をそらすために「反自由的なアジェンダ」を押し付けていると批判した。
米中西部における民主党内の路線対立は、2026年の中間選挙における党全体の混迷を象徴している。本誌『ウラニア』はこれまでに、保守派からの広告攻勢を受けて民主党の穏健派候補がトランスジェンダー問題から距離を置く動き、オハイオ州民主党のLGBTQ+コッカス内で起きた内部対立と検閲問題、そしてアリゾナ州とバージニア州による未成年者向けメディケイド性別適合医療の適用停止決定について詳しく報じてきた。


