豪公的医療保険「メディケア」による性別適合手術の費用助成をめぐり議論が激化

2026年10月初旬、オーストラリアにおいて、連邦医療サービス諮問委員会(MSAC)が審査中の申請第1754号に関するパブリックコメント(公的意見公募)が最終盤を迎えている。同申請は、性別不合を抱える成人を対象とした約30種類のジェンダー肯定手術(性別適合手術)を、豪州の公的医療保険「メディケア(MBS)」の給付対象に追加することを求めており、意見公募は10月9日に締め切られる。
この申請は、豪州形成外科学会(ASPS)と医療連携組織ACA GAMSが共同で提出した。乳房切除術を含む胸部手術、性器再建術、顔面女性化手術、音声手術などが対象に含まれている。推進派の専門医やトランスジェンダー支援団体は、民間クリニックでの費用が現在2万〜10万豪ドル(約200万〜1000万円)以上に達しており、高額な自己負担によって患者が借金や海外での危険な手術に追い込まれていると指摘する。給付項目(MBS)に追加された場合でも手術が完全無料になったり公立病院で即時提供されるわけではないが、公的還付(リベート)が受けられるほか、民間医療保険の適用が可能となる。
一方、権利擁護団体「LGBアライアンス・オーストラリア」が公表した見解によると 、公的助成の導入に対しては慎重派やジェンダー医療批判派から強い反発が起きている。同団体は、手術の長期的有効性を示す臨床データが依然として不十分であり、合併症発生率が高く、特に同性愛者や精神疾患を併発している若者におけるディトランジション(性別移行の中止・逆戻り)や生涯にわたる後悔のリスクが大きすぎると主張。支援者やディトランジション経験者に対し、10月9日までにMSACへ反対意見を提出するよう呼びかけた。
MSACは2025年4月の会合で、当事者に対する医療的介入の必要性を認めたものの、長期的な治療成果に関しては不確実性が大きいと結論づけていた。意見公募の終了後、MSACは2026年11月の会合で再評価を行い、最終決定権を持つマーク・バトラー連邦保健相に答申を行う予定となっている。
メディケア(Medicare)は、税金を財源として全国民に基本的な医療保障を提供するオーストラリアの公的医療保険制度であり、メディケア給付スケジュール(MBS)を通じて医療費の助成を行っている。MSACは、新たな医療技術や手術が公的助成に値するかどうか、安全性、臨床的有効性、費用対効果を中立的に審査する法定諮問機関である。
豪州ではトランスジェンダーの医療政策や生物学的性に基づく権利のあり方を巡り、活発な議論が続いている。「ウラニア」は過去に、タスマニア州における転向療法禁止法案を巡る議論 、女性専用アプリ「Giggle」をめぐる豪高等裁判所の判断 、国勢調査における性的指向・性自認項目の導入経緯 を報じている。


