『生活史』 — マッケンジー・ウォークとエリザベス・デュヴァルによる自伝の脱構築とトランス経験に関する対話録
線形な伝記の枠組みを超えて、記憶、階級、欲望、身体を探求する対話録。

2026年9月30日、スペインの出版社Mutatis Mutandisより、スペイン語の新刊『生活史』(Historia de vida、副題:McKenzie Wark en conversación con Elizabeth Duval)が刊行されました。本書は、オーストラリア出身でアメリカを拠点に活動する理論家マッケンジー・ウォーク(McKenzie Wark)と、スペインの作家・哲学者エリザベス・デュヴァル(Elizabeth Duval)による長編対話録です。
マッケンジー・ウォークは、ニューヨークのニュースクール(The New School)で文化・メディア研究の教授を務めています。『ハッカー宣言』(A Hacker Manifesto)や『資本は死んだ』(Capital Is Dead)など、批判理論、メディア論、シチュアシオニズムに関する論考で国際的に高い評価を受けてきたほか、『リバース・カウガール』(Reverse Cowgirl)や『レイヴィング』(Raving)といったオートセオリー(自伝的理論)作品を通じて、トランスジェンダーの経験、セクシュアリティ、レイヴ文化の空間を論じてきました。一方、パリ第1大学パンテオン・ソルボンヌ校および新ソルボンヌ校で哲学とフランス文学を学んだエリザベス・デュヴァルは、小説、哲学、文化批評の領域を横断して活動しています。小説『レイナ』(Reina)や詩集のほか、トランスアイデンティティ、ジェンダー、左派政治思想を考察した重要作『トランスの後に』(Después de lo trans)の著者としても知られています。
『生活史』は、伝統的な自伝の規範から意識的に距離を置いています。著者たちは、人間の生涯を一貫した線形な年表に還元できるという前提そのものに疑問を投げかけます。従来のトランス回想録や初期の生物医学的言説において、トランスジェンダーの人生は定型化された筋書きに閉じ込められがちでした。すなわち、幼少期における「間違った身体」の苦悩、危機、医療的移行を経て、最終的に固定されたアイデンティティへ至るという枠組みです。ウォークとデュヴァルはこの線形な進歩史観を退け、生きられた生を、断絶、逃走、不確実性、未解決の緊張に満ちた「介入された開かれたアーカイヴ」として捉え直します。
本書は、哲学的対話、オートセオリー的エッセイ、個人的回想、そしてドキュメンタリー写真を巧みに融合させています。対話は、オーストラリアの工業都市ニューカッスルから、ニューヨーク、パリ、マドリードの知的・芸術的空間に至るまで、多層的な地理と社会的コンテクストを行き来します。議論は大学の講義室と深夜のクラブフロアを往復し、抽象的な理論がいかに身体的感覚、ダンスフロア、そして周縁化されたコミュニティにおける相互扶助の実践と共鳴しているかを浮き彫りにします。
こうして個人的な証言は、形式的かつ政治的な問題へと昇華されます。生を語る権能を誰が保持しているのか、どのような立場から証言がなされるのか、そして過去を想起するたびにその意味がいかに変容するのか。『生活史』は、トランスの生が単なる孤立した個人の自覚によって成立するのではなく、階級的出自、言語、都市空間、欲望、そしてクィア文化の集団的空間との複雑な交差の中で生成されるものであることを鮮やかに示しています。






